子供の心を理解するための心理学「選択理論」~自分の頭を他人に預ける子にしないために~

昨日に続き「選択理論」という心理学の話です。

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人間関係における2つの関わり方

人間には5つの基本的欲求があることを述べましたが、人間が社会的な存在である以上、どの欲求も人間関係の中でしか満たすことができません。

人間関係において何か問題が生じたり自分の期待と違うことが起こったりしたときに陥りやすいのが「外的コントロール」と言われるものです。

外的コントロールは、自分の期待通りに人が動かなかったり願ったように事が進まなかったりしたときに、相手を批判したり責めたりすることです。

例えば勉強嫌いな子に対して、大人が「勉強が大切なのは当たり前だ。子供の幸せのためには勉強させるべきだ。自分にはその責任があるので子供は自分の言う通りにすべきだ」という態度で子供に無理矢理勉強させるとどうなるでしょう。

その場では勉強したとしても継続はしないでしょう。このような関わり方が外的コントロールで、根底には、自分は相手をコントロールすることができる(思うようにさせることができる)という考えがあります。

相手が身近で大切な人であればあるほど陥りやすく(親→子供、教師→子供、夫→妻、妻→夫、上司→部下など)、相手への期待が大きいあまりに引き寄せてしまう行為だと言えます。

それに対して、外的コントロールを使わない人は、何か問題が生じたときに相手の話に耳を傾け、思いやりを示し、違いを話し合い、協力しながら解決しようとします。

どちらも相手への期待があるために問題が生じるのですが、期待のレベルや、相手に選択の余地があるかどうかが大きく異なります。

外的コントロールを使わない人は、「こうなってくれたらいいなあ」という純粋な期待をもち、期待を相手に伝えますが、その答えは相手が決定してかまわないという考え方をします。

一方、外的コントロールを使う人は、「こうならなくてはならない」という期待の押しつけをし、選択の余地を与えようとしません。

グラッサー博士は、人はそれぞれ違う上質世界(願望)をもっているので、まずは相手の願望をじっくり聴いた上で自分の願望を穏やかに伝えることが大切だと述べています。

そして、私たちが身に付けたい習慣として、「耳を傾ける」「励ます」「尊敬する」「受け入れる」「違いを交渉する」「信頼する」「支援する」の7つを挙げています。

一方、人間関係を壊してしまう致命的な習慣として、「文句を言う」「脅す」「責める」「罰する」「批判する」「褒美で釣る」「ガミガミ言う」の7つを挙げています。

身に付けたい習慣の4つ目の「受け入れる」は、すべてについてOKしたり自分が我慢したりするという意味ではありません。

我慢ではなく忍耐(目標のために試練に耐えることを認めること)が「受け入れる」ということです。

また、相手を褒めることはよしとされがちですが、操作的な意図が入ることは外的コントロールになります。

「褒めればやる気になるだろう」「認めたら自分の言う通りになるだろう」と思って褒めるのは相手をコントロールしていることになります。「あなたは私にとって大切な存在ですよ」ということを空気のように伝えることが大切なのです。

自分は変えられるが、他人は変えられない

選択理論では、人間の行為、思考、感情、生理反応の4つは連動して動いているとして「全行動」と呼んでいます。

行為と思考は自分でコントロールできますが、感情と生理反応は直接にはコントロールできないものだとしています。

例えば何か悲しいことがあったとして、いつまでも沈んだ気分でいることは、その人がその状態を自ら選択していると考えます。

悲しいという感情は直接はコントロールできませんが、思考と行為を変えることで気持ちを切り替えることは可能だからです。

思考と行為を自らの選択でコントロールし、よりよい方向に進んでいくことが大切です。

子供をコントロールして動かし続ければ、その子の大切なハンドルを奪い、自分の頭を他人に預ける子にしてしまいます。

親だから、教師だから、上司だから・・・、我が子や生徒や部下を思い通りに変えられるという考えは、大切な人間関係を壊してしまいます。

人間はみんなそれぞれ違う上質世界(願望)をもち、その実現をめざして内側から動機づけられて生きています。

他者から与えられるものは全て情報であり、解釈や実際の行動は全て自分次第、自分で選択することが可能なのです。

選択理論は、「自分は変えられるが他人は変えられない」ことを教えてくれます。

しかし教育とは望ましい姿に変容させることを目的とした営みです。子供の内側からの選択(主体性)に働きかけることを大切にしたいものです。

 

<参考>
・渡辺奈都子著「人間関係をしなやかにするたったひとつのルール はじめての選択理論」(ディスカヴァー21)

・ウィリアム・グラッサー著 柿谷正期翻訳「グラッサー博士の選択理論-幸せな人間関係を築くために」(アチーブメント出版)

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masaki
誰もが自分の個性や才能を生かして、望む人生を自由に生きられる社会の実現を目指しています。今まで教育に携わりながらコーチング、心理学、カウンセリング、占星学、学習法など、個人の成長や能力開発に関わることを学んできました。このブログで発信する情報が、自己理解や他者理解を深めるきっかけの1つになれば幸いです。
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