「U理論」を活用して「教師と子供の関係性」や「コーチとクライアントの関係性」を理解する

「U理論」とは、マサチューセッツ工科大学のオット・シャーマー博士が明らかにした、個人や組織の変容プロセスに関する理論だ。

「U理論」を知ったのは6,7年前だが、きっかけは神田昌典氏が開発した「フューチャー・マッピング」の講座を受講(当時は「全脳思考」という名称だった)したことがきっかけだ。確か2012年のことだ。

「U理論」に関する書籍はたくさん出版されているが、何度読んでも難解で、つかみどころがない感じだった。

ところが、今年になってある講座でカウンセリングについて学んでいるときに再び「U理論」に出合い、それがきっかけで改めて書籍を読み直してみて、ようやく腹落ちする感覚があった。今回はそれをシェアしたい。

 

私たちが直面する困難かつ重要な問題は、その問題をつくったときと同じ思考レベルでは解決することはできない。解決策が誰の目にも明らかな問題とは異なり、手を打てば打つほど返って状況が悪化するような問題を「ルービックキューブ型の問題」と呼んでいる。この種の問題解決には「過去からの学習」ではなく「出現する未来からの学習」が必要だという。これを可能にするのが「U理論」というわけだ。ただし、「U理論」は問題解決の手法・テクニックというより、むしろ変革の原理なので、どんな方向に舵を切ればよいのかというガイドラインとして活用するのがよいとのことだ。

中土井僚・著「人と組織の問題を劇的に解決するU理論入門」(PHP研究所)の105ページに、「U理論」の7つのステップが示されている。

上図の左にある「ソーシャル・フィールド」とは、私たちの内面の状態の質のことだ。私たちは起きている間、自覚しているしていないにかかわらず、必ず何らかの意識状態にいる。つまり、何かしらのソーシャル・フィールドの状態を体験していることになる。私たちはいつどんなときでも何かしらのソーシャル・フィールドの状態の中にいて、ソーシャル・フィールドのレベルが低いとき(図で言うとレベル1)ほど不毛な時間がただ過ぎていき、高いとき(図で言うとレベル4)ほど深い確信に満ちたアイデアや意志が生まれるという。ソーシャル・フィールドは図示されているが、大きな円は「過去の経験によって培われた枠組み」を表し、小さな丸は「自分の意識の焦点」を表している。以下ソーシャル・フィールドのレベルについて簡単に説明してみよう。

レベル1 ダウンローディング(DOWNLOADING)
自分という境界内に視点があり、過去の情報をダウンローディングするだけの状態

レベル2 観る(SEEING)
自分という境界の周辺に視点があり、事実に基づく判断をしている状態

レベル3 感じ取る(SENSING)
自分という境界線の外側に視点があり、他者に感情レベルで共感できる状態

レベル4 プレゼンシング(PRESENCING
境界線は開かれており、自由な視点でより大きなものとつながっている感覚

 

ソーシャル・フィールドについてもう少し理解を深めるために、より具体的な場面に当てはめて考えてみよう。

英治出版「U理論」(C・オット・シャーマー著)では、医師と患者の関係性を「ソーシャル・フィールド」にあてはめて解説している。

レベル1 ダウンローディング(DOWNLOADING)「修理工」
怪我や病気をして医師のもとを訪れた患者が緊急に望むことは、怪我や病気を治してもらうことである。例えば、患者が風邪であれば、医師は風邪薬を処方する。このレベルで医師の役割は「患者を助ける人」であり、病気という「欠陥」を修理する「修理工」である。

レベル2 観る(SEEING)「指導者」
風邪なども含め、健康問題は生活習慣にも原因がある。レベル2の医師は、風邪をひきやすい患者に対して生活習慣を見直し改善すよう助言をする。このときの医師の役割は、患者個人の背景や根本を見て正しい指示を与える人、「指導者」の役割をする。医師は患者の「行為」レベルでの変容を促す

レベル3 感じ取る(SENSING)「コーチ」
健康問題は、行為レベルで解決することもあるが、もっと深いレベルまで掘り下げなければならないこともある。病気の遠因が、仕事や人間関係など生き方に関わるものの場合もある。世の中には大病を患うことによって人生観が変わる人もいる。このレベルでの医師の役割は、患者が自分の人生と思考のパターンを内省するための「コーチ」である。医師は患者の「思考」レベルでの変容を促す

レベル4 プレゼンシング(PRESENCING)「新しいものを生み出す助産師」
最も深いのがこのレベル。ここでは健康問題は、「個人を成長させ内面を育む旅に必要な糧」ととらえられる。この糧が、創造の内なる源(ソース)がもつ潜在力を十全に開花させ、真の自己への旅に乗り出せと促してくれる。このレベルの医師の役割は、「新しいものが生み出されるのを介助する助産師」である。医師と患者がそこで「出会った意味」をありありと自覚し、患者が「私とは何者か?」に対する答えを出す。つまり医師は患者の「自己」レベルでの変容を促す

 

患者の多くがレベル3や4を望んでいるのにもかかわらず、現実にはレベル1や2がほとんどである(英治出版「U理論」C・オット・シャーマー著)

 

では、学校はどうだろうか?

ある程度経験を重ねた教師が困難な学級を持ったとき、過去のやり方に固執し、うまくいかなかったとしたら、それはレベル1にいるということだろう。過去のうまくいったパターンをとりあえず横に置き、判断することをやめ、ありのままを観察することができたらレベル2だ。さらに視点を過去の枠組みの外側に移し、問題行動や児童個々の背景を理解し、感情レベルで共感することができたらレベル3に行くことができる。最後のレベル4は、なぜこのタイミングで自分はこの子供たちに出会ったのか、その出会いの深層背景が理解できるかどうかにかかっている。「自分は経験を積んだ優れた教師なんだ」というセルフイメージを手放し、目の前の子供たちから学ぼうと思えるかどうかだ。今までの古い自分の枠組みでは通用しないことに気付き、より大きな自己へと成長するためにこの子たちと出会ったのだと感謝できたとき、プレゼンシングは起きるだろう。子供たちの側も、それまでに執着していた「教師への敵対心」を手放すことで、真の成長が始まる。

 

今回、教師と子供との関係性を「U理論」を通して理解することを試みたが、コーチングにおけるコーチとクライアントの関係においても同様であろう。クライアントの願望達成にはレベル3や4の変容が不可欠である。そのためにはコーチのソーシャル・フィールドが重要だということだ。

 

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masaki
誰もが自分の個性や才能を生かして、望む人生を自由に生きられる社会の実現を目指しています。今まで教育に携わりながらコーチング、心理学、カウンセリング、占星学、学習法など、個人の成長や能力開発に関わることを学んできました。このブログで発信する情報が、自己理解や他者理解を深めるきっかけの1つになれば幸いです。
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