東洋館「算数授業研究Vol.110~特集 振り返りをどうするか~」を読んで、授業終末の「振り返り」について再考した。

前回のブログで、算数の授業の技について述べた。

その中にあった「振り返り」についてもう少し深めたいと思い、東洋館出版「算数授業研究Vol.110~特集 振り返りをどうするか~」を手に取った。

 

算数の授業では一般的に(算数に限らず他教科でもそうだが)、終末部で「振り返り」をさせることが多い。新学習指導要領で言われる「深い学び」を実現するのにこの学びの「振り返り」が重要だとよく耳にする。

では、子供にどのように「振り返り」をさせればよいのだろうか。

その前にまず、新学習指導要領の目標に「振り返り」という言葉が出ているのは算数だけだという。

第1 目標
(3)数学的活動の楽しさや数学のよさに気付き、学習を振り返ってよりよく問題解決する態度、算数で学んだことを生活や学習に活用する態度を養う。
(平成29年告示学習指導要領 算数科の目標より引用)

 

このことから、算数という教科において「振り返り」がとても重要視されていることが分かる。

新学習指導要領からさらにさかのぼれば、平成元年告示の指導要領で新しい学力観が打ち出された頃、子供の関心・意欲・態度が重視されるようになり、その見取りとして振り返り活動が盛んになった。

先の平成20年改訂の指導要領では、言語活動の充実が打ち出され、「思考力の育成は表現力の育成と表裏一体」との考えから、教科書に考え方の説明の例示や、振り返りの書き方の例が示されるようになった。

例えば、東京書籍の教科書(4年)には、次のような記述がある。

<学習感想>には、
今日の学習で
〇わかったこと
〇気がついたこと
〇次に考えてみたいこと
〇友だちの考えをきいて思ったこと
などを書きます。

 

多くの教室ではこれにしたがって、授業の終末時に5分間くらいでノートに学習感想を書かせることが形式的に行われていることだろう。私もそうだ。

しかしこれだけでははっきり言えば不十分だ。

では、くりかえしになるが、どのように「振り返り」をさせればよいのだろうか?

 

本書(「算数授業研究Vol.110~特集 振り返りをどうするか~」)に目を通してみると、およそ次のような論点があることが分かった。

 

①振り返りをさせる目的は何なのか?

②振り返りはいつさせるのがよいのか?

③振り返りの仕方をどのように指導するのか?

 

このような論点があるということは、多くの教室で行われている現状として、

 

①教師が振り返りをさせる意味も考えずに、

②授業の終末時に形式的に時間をとり、

③具体的な指導もせず、ただ漠然と子供に振り返りを書かせている

 

という現状があるのだろう。繰り返し反省するが私もその一人だ。本書を読んで、今後改善したいことを以下のようにまとめてみた。

「振り返り」の目的を明確にする

毎時間授業には目標がある。技能を習得することがメインの時間もあれば、数学的な見方を培いたい時間もある。算数のおもしろさに触れ、学びに向かう意欲を高めたい時間もある。

そこで次のように、「振り返り」の目的を明確にすることが大切だ。

・知識、技能を定着させるための「振り返り」

・思考力を高めるための「振り返り」

・表現力を高めるための「振り返り」

・課題発見につながる「振り返り」

・学び方を身に付けさせるための「振り返り」

・学習意欲を高めるための「振り返り」etc.

 

このように目的が明確になると、「振り返り」をするのに丁度よいタイミングも自ずと変わってくるはずだ。そこで次のことが大切だ。

「振り返り」は終末時に限定せず、導入時、展開時など、目的に合った適切なタイミングで行う

例えば、本時で大事にしたい数学的な見方・考え方が生まれた場面があったとしたら、そのタイミングで「振り返り」をさせてもよいだろう。終末よりも記憶が鮮明であり、より効果的な場合もあるずだ。このように数学的思考力を高めるという目的が明確なら、「振り返り」は終末時に限定する必要はない。

表現力を高めることが目的であれば、子供の素朴な日常言語による表現があったときに、「それはどういうこと?」と問い返して振り返らせることも有効だろう。そうすることで生活言語を数学的な表現に洗練させていくことができる。授業中に何度も子供に「振り返り」をさせることで、それが可能だ。

授業が「問い」の連続する展開となっている場合は、「振り返り」は問題解決の過程に位置付けられる。「今はっきりしたことを書いてみよう」「まだはっきりしないことを書いてみよう」と問いかけ、何ができるようになって、何がまだできてないのかを明らかにすることで、新たな課題が生まれ、連続性のある授業になっていく。

以上のように授業の展開時にタイミングよく「振り返り」をする場合もあれば、さらに導入場面で前時や既習単元の「振り返り」をするケースがあってもよいだろう。いずれにしても、「振り返り」をする目的を明確にし、その目的に合った適切なタイミングで「振り返り」をすることが重要なのだ。

タイミングという観点からは少し外れるかもしれないが、「文章での振り返り」をしないという選択もありうる。技能を定着させたい授業で、大切なことを言葉でノートにまとめたからといって実際にできるようになるとは限らない。形式的な言葉で「振り返り」をするくらいなら類似問題で実際にできるかどうか試してみたほうが技能が定着する場合もあるはずだ。このような場合も「振り返り」と柔軟に捉えておきたい。

どのように「振り返り」の指導をするのか?

子供が「振り返り」を行うのは教師が何らかの働きかけをしたときだ。「ここまでを振り返ってノートに書きましょう。」「今日の振り返りをしましょう。」などの指示がその多くだ。ここで漠然と指示を出すことを今後は改めたい。

筑波大学附属小学校の盛山隆雄先生は、「算数授業研究Vol.114」(東洋館出版)で、授業のまとめのときに行う発問について次のように整理している。

【知識・理解に関するまとめ】
・どんなことが分かりましたか?
・どんなことを使って考えましたか?

【見方・考え方に関するまとめ】
・どこに目をつけるのがよかったですか?
・どのように考えたらよかったですか?
・大事なことは何かな?(本質)
・どの考えも、結局どう見ているということかな?(統合)

【学び方に関するまとめ】
・今日の授業では何が問題になったのかな?(問いの作り方をまとめる)
・新しくやってみたいことはありますか?

 

これらの発問に、そのときそのときの内容に応じた具体性を加味して発問すること、また、「どんなことが分かりましたか?」の後に「それが分かるためにどのように考えたのかな?」と結果に至るまでのプロセスを振り返ることが大切だと述べている。

このような「教師からの発問」によって意図する力が育つと考えられるのだが、「学びに向かう力、人間性」という観点から、子供自身が自らに問いかけができるようになれば理想だろう。教師が指示しなくても常に次のように発展的に自問する姿だ。

問題解決をした後で 自分に投げかける質問例

・それは正しい方法なのか?(論理性、妥当性の検討)

・それは他の場面でも使えるのか?(一般性の検討)

・別のよりよい方法(簡潔、明瞭など)はないのか?(ラテラル思考)

・多くの方法を統一してまとめられないか?(一般性の検討)

・別の場面に応用できないか?(活用)

・次は何を考えるべきか、何を考えることが大切か?(問題設定、問いの連続)

・自分の(自分たちの)学び方のどこがよかったのか?(学びのモニタリング)

etc

 

もちろん一朝一夕には身に付かないので、このような姿を意識しながら、まずは教師の具体的な発問によって「振り返り」の仕方を指導し、学びに向かう力を育てていきたい。

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masaki
誰もが自分の個性や才能を生かして、望む人生を自由に生きられる社会の実現を目指しています。今まで教育に携わりながらコーチング、心理学、カウンセリング、占星学、学習法など、個人の成長や能力開発に関わることを学んできました。このブログで発信する情報が、自己理解や他者理解を深めるきっかけの1つになれば幸いです。
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