『尾﨑正彦 著「算数の授業がもっとうまくなる50の技」(明治図書)』を読んで、これは使ってみたい!と思った技を8つピックアップしてみた。
①困っている友達の思いを、別の子に代弁させる
私がよくやる方法は、困っている子ではなく、算数の得意な子が流暢に説明しているときに、あえて説明をストップさせ、「〇〇さんの言いたいことの続きが言える人?」と言って続きを別の子に語らせる方法だ。こうすることで対話や説明活動が活発になる。本書で紹介されている「困っている友達の気持ちを語らせる」はその逆だが、これも良い方法だ。「あれ?」とか「なんで?」と困惑している子は自らの気持ちを語るのには抵抗がある。そこでまわりの子に困っている子の気持ちを推察させ、どこで困っているのかを語らせるというわけだ。
②本時のポイントを2つの方法で全員に再現させる
2つの方法で、というのがミソ! よくやるのは、「いま〇〇さんが言ったことを、おとなりの人と確かめ合ってみよう」と指示して言葉で再現させるか、「ノートにまとめてみよう」と指示し、文章で再現させるかのどちらかだ。その両方をさせるというわけだ。「〇〇さんの説明を、おとなり同士で再現します。再現が終わったら、話したことをノートに書きます」と指示して、音声表現と文章表現の両方で再現させるのだ。
③念押し発問で、話し合いをまとめる
例えば、図形の面積を求める場面で、公式につながる考え方が子供から出たとする。そこで教師がすぐに公式でまとめるのではなく、次のように念押し発問をする。「どんな形でもこの方法で面積を求められるの?」このような念押し発問をすることで、対象の範囲を拡張する見方が子供に育ってくる。たった1つの事例で一般化することは危険なのだ。
④ノートに丁寧さと自由さのバランスをとらせる
子供の中にはノートを書くのが丁寧すぎる子がいる。きれいに書くことに意識が向いているあまりに、肝心の話し合いや、考えること自体がおろそかになってしまうおそれがある。そこでノート指導では、丁寧に書く部分と、ある程度の自由さ許容する部分とのバランスをとるようにする。具体的には、問題文やまとめ、ポイントなどはていねいに書かせ、自分の考えやちょっとした計算など自由に実験する場面ではメモのように自由にすばやく書かせるのだ。このように軽重をつけようとする態度は、算数のノートに限らず大切である。
⑤振り返りでは目標数値を提示する
授業終末部ではノートに「振り返り」を書かせるのが一般的だが(終末部でないときもあるが)、ただ単に「今日の学習感想を書きましょう」と指示するだけは数学的な考え方は育たない。そこで、具体的なテーマを与えて(その時間のポイントになるテーマで)、かつ、具体的な分量の数値目標を示すのである。本書には10分間あたりの目安として以下の分量が例示されている。
1年80文字 2年100文字 中学年150文字 高学年200文字
子供は具体的な数値目標があると、それを超えようとがんばるものだ。ノート1行のマス数が20マスなら高学年なら10分で10行が目標になる。日によって「振り返り」の時間が5分しかないなら、その日は5行が目標となる。決して無理な分量ではないだろう。
⑥めあてとまとめの扱いを工夫する
最近は学校ごとに「スタンダード」なるものがあって、例えば、必ず最初にめあてを書き、最後にまとめを書くことが校内で統一されていることがある。本書はそこをもう少し柔軟に考えよう!という提案だが、全く同感だ。本書では次のような事例が述べられている。九九表のきまりを見つける学習で、教師が「きまりをいろいろ見つけよう」と投げかけるのはよくあることだ。しかし、これでは子供は受動的になってしまう。本当は「九九表には何かきまりが隠れている」ということを子供に気付かせることがこの授業の最も大切なポイントなのだ。めあてが授業冒頭に位置づくことは通常はない。問題を教師から提示し、その問題に向かう中で、子供たちが問いを感じる。その問いを、そのままめあてとして板書すればよいのだ。九九表の授業の例では、冒頭の問題は「九九表を完成させよう」でよい。まとめも、教科書通りになる必要はなく、子供の学びの状況に応じて柔軟にまとめの内容を変更していくことが大切だ、という著者の主張に納得できる。
⑦子供のつぶやきを色チョークで明示する
子供のつぶやきには、授業を深めたり方向転換したりする価値ある内容が含まれている場合がある。このような価値あるつぶやきを、ふきだしで板書で書き残しておくと授業がよりインタラクティブになる。本書で例示されているように子供が問題と出会った瞬間は、「なんで?」「できないよ」など、わからなさを素直に表出することが多い。こういうつぶやきを拾って黄色チョークなどで書き残すのだ。私がよくやるのは解決の見通しを出し合う場面だ。自力解決に入る前に「こうやったらできそう」という子供の声をふきだしで書いておくと、すぐに考えが浮かばない子にとってはよいヒントになる。
⑧教科書の展開を少しだけ変える
先ほど③でも述べたが、たった1つの事例から一般化を図る(公式にまとめる)のは危険だ。1つの事例→公式→練習問題という教科書の展開を、1つの事例→練習問題(別の事例)→公式と少しだけ変えることで、一般化の考え方を大切にできる。このような数学的なものの見方を育てることを教師はもっと意識しなければならないし、新学習指導要領で求められていることだと考える。
本書にはほかにも多くの有効な技が紹介されているので、興味がある方にはぜひ一読を薦めたい。
また、本ブログでも(旧ブログも含め)算数について書いた記事がいくつかあるので、あわせてお読みいただきたい。
★2018年8月20日 エントリー記事
「生きづらさを感じている子に読んでもらいたい算数の話」
★2018年5月10日 エントリー記事(旧ブログ)
「そもそも授業でなぜ『対話』が必要なのか?」
★2018年5月9日 エントリー記事(旧ブログ)
「授業で『対話』を生む手立てを集めてみました」
★2018年4月15日 エントリー記事(旧ブログ)
「授業用のパワーポイントコンテンツ(算数)を共有する方法」
★2018年4月10日 エントリー記事(旧ブログ)
「なぜ学校で算数を学ぶのか?」
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誰もが自分の個性や才能を生かして、望む人生を自由に生きられる社会の実現を目指しています。今まで教育に携わりながらコーチング、心理学、カウンセリング、占星学、学習法など、個人の成長や能力開発に関わることを学んできました。このブログで発信する情報が、自己理解や他者理解を深めるきっかけの1つになれば幸いです。
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