小学校学習指導要領(平成29年告示)に示された「深い学び」とは? 上智大学・奈須正裕先生の言葉④

「主体的・対話的で深い学び」について、上智大学・奈須正裕先生の言葉を数回にわたって紹介している。今回でひとまずラスト。最後は、新学習指導要領の目標に示された「日常生活」の捉え方について。

 

(引用元は『国語授業における「深い学び」を考える -授業者からの提案- 全国国語授業研究会 筑波大学附属小学校国語研究部編著(東洋館2017年8月初版)』

 

目標に示された「日常生活」の意味

生活との関わりそれ自体は重要な視点ではあるが、日常生活という言葉は気をつけないといけない。

日常生活という言葉は諸刃の剣で、教科というのは非日常的だから意味がある。日常の中にある事物現象を非日常的な見方で見るから面白い。

(国語の時間によくやる)説明文を区切って読むということは日常生活ではしない。大体の意味が取れればいいから。それを文体とか語り手とか構造に注目しながら読むというのは、少し見方を変えれば、日常触れているものの奥に、そんな深みがあることを知ること。

つまり日常生活に生きるからといって、そこを日常の、本当に町の暮らしに引きずりおろしてはいけない。町の暮らしをするのに困らない程度に身につけばいいと思ってはいけない。むしろ教科を勉強することによって、日常のものに対して、その奥にそんな奥深い世界とか、素敵な世界とか、格調のある世界があることを知って、その方向に日常生活をむしろ変化させていくとか、洗練させていくとか、自分なりに作り上げていくとか、そういう意味で日常生活をとらえていかないと教科がグズグズになってしまう

入り口の素材は子供たちの日常生活でいいが、その素材が言語的にあるいは文章的に日常で出会う以上の洗練度合いを持っている、あるいは子供が初めて見るような構造なり言語文化としての新たな価値がある、そういうことがないと意味がない。

日常生活は子どもの学びや思考を枠付けているわけだが、同時に、学校で学んだことを足場に、子供は自分の日常生活を国語であれば言語的により洗練されたものに、あるいは自分らしい表現へと変えていくという可能性もある。そういうところに子供が向かうような目を作りたい。

文章作成は日常生活を足場にしてもそれほど問題はないが、読解は日常ではすでにできているので指導するのはもう一段上

生活に基づいて、生活に根ざしつつ、生活を改革していくというか、改善していくというか、望む方向に作り変えていくような学習になっていくこと。科学や学問や文化というのは僕らの暮らしを僕らが望む方向により良いものにしていくためのもので、そこの行き来がすごく大事。そういうものとして日常生活という言葉を理解する。

(太字は私が施したもの)

 

奈須先生の話を受けて、筑波大学附属小学校の先生方も次のように述べている。

 

(青山)入口は子供たちの日常生活でいいが、先生も一緒になってそこに終始してしまうと、次の段階の抽象度の高い国語で学ばせる本質に行かない

(桂)与える武器を国語はもっと明確化しなければいけない。武器なくして新たな文章に出会った時に、前に学んだあの読み方が使えるとか、実際にそれを使って読んでみようとか、次の学びへの見通しは持てない 。与えるべき系統的な言葉の力がぼやけることが多い。これは国語授業の課題。

(二瓶)子供自身が旧知識を関連付け、構造化できる学び。子供自身が自己評価、メタ認識できると。それが次なる学びに生かせそう、と子供自身が自覚できるような学び。学年なりの単元のつながり。1年から6年までの系統的な単元のつながり。領域のつながり。本時の1時間がどういう様々なつながりの中に位置づけられるのかという教師自身の自覚なくして深い学びは成立しない。子供の日常の読書生活を変容させるための物語の授業とはなんぞや。与えるべき読みの武器とはなんぞや。それが教科の本質。子供が日常生活ではおそらく出会わない。でもそれを知った時に子どもの読書生活が変わる。読解をやると子どもの読書生活は崩壊する。つまり読解の授業をやればやるほど、子供は読むことが嫌いになるというのが現状。それは教師の側に意識がないから。教室での読解の学びと子供の日常生活における読書生活が密接に関連しているという意識。 例えばクライマックス場面を扱った時にそれって面白いという体験をいかに授業の中で仕組むか。それこそが生きて働く読みの力。いくら分析的な読みの力はついても、それだけだと子どもの読書生活は変容していかない。

(青木)国語であれだけ読解に時間をかけて授業をやっているのに読書になるとさぁプレジャーリーディングをしましょうとなるから面白かった以外に読書感想文が書けない。国語の授業でやっている読み方が読書の仕方も変えるということ。

(太字は私が施したもの)

 

どうだろうか。

日常生活という言葉が意味するところを理解していただけたのではないか。誤解を生みかねない言葉だけにしっかりとその意味を理解し、授業づくりをしていく必要がある。また、このことを理解した上で学習指導要領を読み込むとよいだろう。

 

 

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masaki
誰もが自分の個性や才能を生かして、望む人生を自由に生きられる社会の実現を目指しています。今まで教育に携わりながらコーチング、心理学、カウンセリング、占星学、学習法など、個人の成長や能力開発に関わることを学んできました。このブログで発信する情報が、自己理解や他者理解を深めるきっかけの1つになれば幸いです。
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